僕達の願い 第42話


ブリタニア皇帝謁見の間。
その開かれた扉から、武器を手にした兵士が雪崩れ込んできた。
彼らの先頭に立つのはコーネリア。
宮殿警備の最高責任者だった。
謁見の間にいた高官たちを押しのけ、コーネリアが率いるグラストンナイツも玉座に向かって走ってきた。
ルルーシュはその光景に、すっと目を細め柳眉を寄せた。
警備をしているコーネリア達が来ることは予定通りだが、予想を遥かに超える人数がこの場に集まってきた。どこにこれだけの兵いたのだろうか。だが、ガウェインを止められるほどのKMFはブリタニアにはなく、集まってくるのは歩兵だけで、KMFがこちらに向かってくる気配もない。
そう、KMFが。
・・・何かがおかしい。何か仕掛けてくるのか?
C.C.がどうすると目で訴えてきたが、ルルーシュは静かに目を細めた。今ここで発砲し皇帝を撃つことは簡単だが、それでは駄目なのだ。この流れを止められたのは残念だが、同じ状況を作り出せばいいだけだ。この時代のコーネリアは軍人で、その思考はブリタニア皇族そのものだ。付け入る隙ならいくらでもある。
玉座の前に集まった、力強く凛とした表情のコーネリアと、それに従う兵士たちの姿にシャルル皇帝は再び冷静さを取り戻し、勝ち誇ったように口角を上げ命じた。

「コーネリアよ!この痴れ者を討ち取れ!!」

重厚な威厳を宿した王の命令が謁見の間に響き渡る。
コーネリアとその部隊はブリタニアでもトップクラス。
ラウンズ相手にも引けをとらないほどの力を持っていた。
相手は未知の性能を誇る巨大なKMF。
だがこちらには、ナイトオブワンであるヴァルトシュタインが側にいて、コーネリアの部隊も集結した。
まだ勝てる。
KMFが引き金を引いたとしても発射できるのは1発。
連射は効かないだろう。
何より、コーネリアと共に撃つとは思えない。
ならばコーネリアを盾とすれば、もう恐れる理由はなくなる。
儂の勝ちだ。
顔に笑みを乗せたその時、コーネリアは皇帝の前に立った。

「父上。貴方に王としての資格はもうありません」

その手には拳銃。

「コーネリア、貴様・・・」

銃口は皇帝に向けられていた。
コーネリアが連れてきた兵士は、皇帝に銃を向けたのを合図に、一瞬でこの場を制圧し、ギルフォードとダールトンはヴァルトシュタインに銃口を向けていた。
これは、クーデター。
今までのルルーシュと皇帝の会話はオープンチャンネルで行われていた。
つまり、誰でも今の会話を盗み見ることが可能だということ。
クーデターを計画していたコーネリアは、ルルーシュと皇帝の会話が終わるのを見計らって、この場へ雪崩れ込んできたのだ。
忌々しげに睨みつけてくる皇帝をコーネリアは厳しい表情で見つめた。

「・・・父上、貴方は何も知らないのです。真の平和を生み出すために、どれほどの犠牲が必要なのか、それがどれほどの苦しみなのか、貴方は解っていないのです」

厳しかった表情に僅かな悲しみを乗せ、コーネリアは静かに語った。
まるで物分りの悪い子に教えるような態度に、皇帝は不愉快そうに眉を寄せた。

「ほう、コーネリアよ。自分は知っているとでもいうつもりか?」

身内通しの醜い争いを、愛するものが殺された悲しみすら知らない子供が、戦争すらろくに経験していない子供が、何を知ったような口をと、皇帝は苛立たしげにいった。
コーネリアは眉を寄せ、悲しそうに笑うとゆるく首を振った。

「いえ、私は知ることさえ許されませんでした。ですが、私は見続けていました。それを知る者の姿を。その苦しみを。・・・貴方には無理です、父上」
「見続けた、だと?」
「自分を捨て、人であることを捨て、正義の、平和の象徴となり、次第に壊れていく男を見続けてきました。ここではない時で。・・・もう二度とあのような選択肢を、あの子たちに選ばせるわけにはいかないのです。私の願いは唯一つ。あのような犠牲を出すこと無く、戦争のない平和な世界への道を切り開くこと」

あの子達が願った、優しい世界を作り出すこと。

「何の話だ」
「父上には解らない話です」

コーネリアは辛い何かを思い出すように目を伏せた。
その巣型を見た皇帝は、口元に笑みを浮かべた。
甘い。
甘いぞ、コーネリアよ。
何の話かは解らないが、これで勝てたと思うなど、甘すぎるわ。
皇帝はその両目に力を込める。
美しい紫の瞳は、その瞬間血のような赤い輝きを宿し、その瞳の中に鳥が羽ばたくような赤い文様が浮かび上がった。

「コーネリアよ、そしてここにいる者達よ、お前たちはこのシャルル・ジ・ブリタニアに永遠の忠誠を誓い、その命をかけて儂が命令を遂行せよ」

その瞳から、赤い文様が羽ばたいた。
それは記憶改竄のギアス。
皇帝に永遠の忠誠を誓い、命をかけて守る。
その記憶を、その心の奥深くに植え込む。
そうすることで、ここにいるものは全て皇帝のギアス兵となるのだ。
赤い鳥は兵士たちの、高官たちの瞳に飛び込み、姿を消した。
これで終わりだ。

「シャルル・ジ・ブリタニアが再び命じよう、あの痴れ者を討て」

勝者の笑みを浮かべ、絶対の命令を下した。
だが、コーネリアは何事もなかったかのように悲しげに目を細め、首を横に振った。
コーネリアだけではない。
彼女が連れてきた兵士たちもまた、何の反応も示さなかったのだ。
反応を示したのは高官たちだけ。
ヴァルトシュタインも含め、彼らはすでに捕縛されていた。
間違いなくギアスは発動している。
それなのに、コーネリアたちは皇帝にひれ伏すことはなかった。
ありえない光景に皇帝は驚き、目を見開いた。

「効かぬ、だと?」
「無駄ですよ、父上。私達にあなたの記憶改竄は効きません」

悲しげな眼差しで、コーネリアはそう告げた。
もし、皇帝がギアスを使うこと無く降伏してくれるなら、帝位を剥奪した後、生涯離宮で幽閉する事を考えていたが、その選択肢は消えた。
ここにいるものを操るため、皇帝は力を行使しようとした。
しかも、自分の意のままに操れるギアス兵とするための命令を。
この男は自らの欲望のためには、我が子であろうと迷わず駒に変えるのだ。
やはりこの存在は危険。
私の願いを叶えるためには、残してはいけない。

「お別れです、父上。愛していました」

たとえ暴君であったとしても、貴方は父でしたから。
険しい顔から一点、聖母のような優しい笑みを向け、その指に力を入れた。
ルルーシュに父殺しという罪を着せはしない。
その罪は私が背負う。
大きな銃声の後、その巨体はぐらりと傾き、大きな音を立てて倒れた。

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